謎の星系

「予想通りでしたね。 太陽クラスの恒星と7つの惑星を確認。 正に、ヘリオポーズの辺りにシールドが存在します。 現時点で通信波の類は感知せず。 ハビタブルゾーンに2個の惑星。 内1つ、第3惑星には・・・間違い無く水が存在します」
「しかし・・・何故こんな。 幽閉されたって事か?」
「第3惑星を調査しましょう。 もう一度隕石に戻るには、惑星調査は2時間程度しか時間が有りませんが」
「よっしゃ!」

 アキラは第3惑星に進路を向けた。
「探査船のジェミニとは?」
「駄目ですね。 外部から内部が分からない様に、内部からも外部が見通せません。 周りにまったく星が見えません」
「確かにな。 仕方ない、兎に角第3惑星を目指そう」

「アキラ、第3惑星の画像です」
 少しぼやけた画像だが、TERAやTONAの様な豊かな海を湛えた惑星が映し出されていた。
「アキラ、この夜の部分には明かりが見えます。 知的生命が存在する様です」
「なのに通信波が検知されない? 信じられないな。 これ程も大陸を網羅し、照明が煌々と灯る惑星で、一切の通信波が使われていないって言うのは違和感があるな」
「ご指摘の通りですね。 非常に違和感を覚えます。 いずれにせよ、余り時間が有りません。 急ぎましょう」
「OK! 重力波航行に移る」

 第3惑星に向かい重力波航行に入ろうとした途端、重力波ドライブが停止した。
「システムダウンです! アキラ、一体何が!」
 重力波ドライブの停止により、機内が突如として無重力状態となった。
「生命維持装置は?」
「稼働しています。 重力波ドライブだけが・・・あっ」
「うわっ、何だ」
 一面が激しく発光し、白い闇に包まれ・・・2人は意識を失った。

 アキラが目を覚ますと、探査機は完全に停止している様だった。
 何故か重力を感じる。 重力波ドライブが稼働したのだろうか。
 窓から覗く景色は、果てしなく闇に包まれていたが、探査機は明るく照らし出されている様だ。 機体の下を覗くと、何故か地面の上に降りていた。

 アキラはロームの事を思い出し、操縦席を振り返ると気を失ったロームを確認し、すぐさま安否確認を行った。
 脈は有り、息もしている。 安堵と共にロームを揺り動かした。
「ローム、ローム、起きろ!」
 はっとした様にロームが目を覚まし、アキラを確認すると直ぐに周囲を確認し始めた。
「ここは、どこですか?」
「分からない。 探査機のシステムは完全にダウンしている。 ポータブル端末も駄目だ」
 そう言うと、アキラは手持ちの装置に何度か衝撃を加えてみた。
「時間も分かりませんね。 どれ程の時間気を失っていたのか・・・場合によっては、この星系からの脱出が難しくなったかも知れません」
「ローム、重力波ドライブを再起動してみて呉れ」
「了解です」

「アキラ、駄目ですね。 まったく動きません。 生命維持装置だけが稼働しているのが不思議な位です」
「ああ、参ったな。 いったいどれ程の時間が経ったのか・・・」
「仮に8時間以内だったとしても、重力波ドライブが起動しない以上・・・帰還は絶望的ですね」
「ああ、そうかも知れないが・・・兎に角、ここに居ても埒が明かないな。 船外活動スーツで外に出てみよう」
「危険では? そもそも、外気温も大気成分も分かりません」
「ああ、しかし、このまま待っていても救出隊が来てくれる筈が無い。 それに、生命維持装置がいつまでも稼働しているとは限らない。 一か八かだ、前に進もう」
「確かにそうですね。 念の為、フェーザーを持って出ましょう」
「あ、ああ。 しかし、もし俺達が・・・俺達の理解を超えた技術で拿捕されたとするなら、とても俺達の攻撃が効くとは思えんがな」

 ロームは僅かに頷き、アキラに答えた。
「確かに、その通りですね。 フェーザーは置いていきましょう。 ポータブルアナライザーも使えないのが残念ですが・・・まずは外に出てみましょう」

 2人は船外スーツに身を包み、後部ハッチの前に立っていた。
「それじゃ開けるぞ、俺が先に出る」
 ハッチが開くと、アキラはゆっくりとステップを進んだ。
 辺り一面は漆黒の闇だったが、何故か探査機の周辺だけが明るく照らされていた。

 アキラは上を見上げて呟いた。
「光源が分からない。 何故この探査機だけが照らされている?」
「不明ですね」 アキラの後方でロームが呟いた。

 ロームは跪き、足元の地面の手触りを探っていた。
「僅かに弾力が有る。 しかし、樹脂と言うよりは何某かの金属の様な感じです」

 その時、2人の目の前に突然人影が現れた。 頭からフードを被り、男性とも女性ともつかない姿だったが、アキラよりも大柄に見えた。
 アキラは僅かにたじろぎながらも、落ち着いた口調で話し始めた。
「俺はアキラ、こちらはローム。 この探査船で星系に侵入したのは2人だけだ。 貴方が我々をここへ?」

 相手はゆっくりと話し始めた。
「その通りだ。 私の姿をお見せする訳にはいかないと考えた。 貴方方の動揺を抑える目的である事を理解して欲しい」
「何の予告も無しに無断で侵入した事はお詫びします。 しかし、敵意は有りません。 我々の技術では到底実現不可能なシールドの存在を知り、中を確認したかった・・・それだけです」

「ああ、分かっている。 貴方方の船の記録を確認した。 この様な調査活動が仕事である事も理解した」
 アキラはロームと顔を見合わせた。 2人共、驚きを隠せずにいた。

「ああ、お2人共、ここは呼吸が可能だ。 そのスーツで無くとも、大丈夫だ」
 2人は顔を見合わせ、同時にフェースガードを取り外し、大きく深呼吸をした。
「ああ、本当だ。 改めて・・・幾つか質問しても構わないでしょうか?」
「ああ、構わない。 貴方方の問いには可能な限りお答えしよう。 しかし、貴方方が今知る必要の無い事も存在する。 その事は理解出来るね?」
「えっ・・・」 アキラは咄嗟に答えられなかった。

「その言葉の意味は」 ロームが念を押す様に質問した。 「答えられない事も有る・・・と言う事でしょうか?」
「私の知る全てを答えても構わない。 しかし、それが貴方方の知識には成らないと言う意味だ」
「分かりました。 可能な限りで結構です。 答えて下さい」
「承知した」
「貴方は、この星系の第3惑星の住人ですか?」
「そうだ」
「何故、この星系全体をシールドで覆ったのですか?」
「不干渉の為だ」
「不干渉? 誰との?」
「全てだ。 他に対して干渉しない。 他からの干渉を受けない」

「ならば、何故俺達に干渉したのです?」
「正直に言おう。 過去、この星系に侵入した者は居ない。 貴方方が初めてだ。 貴方方に興味を持った・・・それが理由だ」
「この星系以外の調査をされた事は有るのですか?」 ロームが質問した。
「ああ、貴方方同様にこの銀河の未知に魅かれ、調査に駆け回った時代も有った。 銀河の外洋へも・・・その結果、上には上が居ると知る事になったのだが」
「えっ!? 貴方方の様な高度な技術を持ってしても、更に高度な?」
「私達は、凡そ3千万年前に文明を得、貴方方同様に宇宙への冒険にも出かけた。 宇宙進出を果たして数万年で、この銀河系に関してはほぼ調べ尽くした。 貴方方の母星と祖先達も調査している。 その間、何度も他銀河の調査を行おうとしたが、私達を遥かに上回る超文明の存在を認識するに留まった。 また、この銀河系内にも、私達以前に驚異的な進化を遂げた文明の痕跡が存在する事も認識した」
「何て事だ・・・俺達の知りたい事は、全て既に調査済みって事なのか?」
「全てかどうかは分からないが、少なくとも貴方方よりも多くの知識を持っていると言えるだろう。 しかし、先程も申し上げた様に、我々をも凌駕する驚異の知性体の存在を認識し・・・私達の祖先は、外部との不干渉を決断した」
「外部との不干渉? 何故? 貴方達ならば、俺達の様な後続の知的生命体のリーダーに成れただろうに」
「そうだったかも知れない。 正直に申し上げよう。 約3千万年前に祖先が不干渉を決断した背景には、複雑な事情が有ったのだ。 今は、その理由を説明する積もりは無いがね。以降の子孫は誰も祖先の決断に疑問を抱かなかった。 今の私達は、祖先の技術を使って生存しているが、既に新たな物を生み出す知識と技術は失われている」
「何ですって? でも、その驚異的な技術を使っているでは無いですか」
「その通りだ。 だが、私達は原理も知らずに使っているだけ。 この3千万年間は、満ち足りた母星の環境で、ただ生まれ、育ち、死を迎える、その様な生涯を過ごす者達の集団になってしまっている。 無論、私もその一人だった」
「と言うと?」
「過去にも、この環境に疑問を持つ者は存在した。 私もその一人。 だから、貴方方に興味を持ち、コンタクトする事にしたのだ。 この星系の外界の状況が知りたかったのだ。 だが、それがこの星系に住む者の総意では無い。 今回の出来事は、私にとって非常に大きな事件だった。 しかし、今の貴方方にとっては知る必要の無い事なのだ」
「何を言うんです。 我々銀河連盟にとって、驚きの事実だ。 是非、貴方方の知識を分けて頂きたい」
「私からもお願いです。 私の母星の問題解決にも、貴方方の知識を・・・」
「貴方の願いは船の記録からの情報で想像がつく。 しかし、与えられた知識で何かを解決したとしても、何かしら新たな問題を生むだけかも知れない。 自ら解決策を見つけ出す・・・それこそが、3千万年前の私達の祖先が求めていたものでは無いかと思っている」
「そ、そんな。 お願いです! 知識がお有りなら! せめてヒントでも!」

 目の前の人影が右手を差し上げたその瞬間、2人の目の前が激しく輝いた。
「うわっ! 何だ!?」

エピローグ

 アキラは緊急アラームの音で目を覚ました。
「うっ、何だ・・・」 アキラは、ボンヤリとした意識の中でアラームの原因を探っていた。
 と、突然アラームが止まった。
 アキラが振り向くと、ロームがコントロール装置を操り、アラームを止めた様だった。

「救難信号です。 この探査機から僅かな距離に・・・発信機が漂っています。 何故か救難信号を発した様です」
「何っ! 救難船が近くに?」
「いいえ。 この周辺、半径2,000光年の範囲には、私達の探査船以外の船の痕跡は有りません。 それに・・・」
「えっ? それに・・・どうした?」
「え、ええ。 それに、この発信機は私達の探査機から射出されたものです。 何故だか分かりませんが」
「ええっ? 俺達がこの発信機を? 何故?」
「分かりません。 ですが、確かに10時間前に射出した事がコントロールシステムに記録されています」
「ええっ!? どう言う事だ? 俺達は・・・探査船の故障修理中に探査機に乗った・・・よな」
「ええ、そうです。 デートがしたい・・・アキラは、そう言っていましたね」
 ロームの言葉に、アキラの顔が明らかに赤くなった。
「あ、ああ、確かに・・・何か無いかなって言う感じで出掛けたな。 確か・・・君が何かに気が付いて・・・」
「何かって、何ですか?」
 ロームは、怪訝そうにアキラを見詰めた。

「アキラ、ローム、ブジ デスカ?」
 ジェミニからの通信だった。
「ああ、ジェミニ。 こちらには何も問題は無い」
「ソレハ ヨカッタ。 ドウデス? コチラニ モドリマセンカ?」
 突然、2人の乗る探査機の正面に、巨大な探査船が現れた。

 探査船のコントロールルームで、アキラとロームが議論していた。
「なあローム、俺達は探査機で探査船を離れた。 それから、どうしたっけ?」
「ええ、少し移動した所で銀河の中心部を目視で眺めていましたね。 確か、アキラはロマンティックと評していましたね」
 アキラは、また顔を赤らめながら。
「まあ、ローム。 どう表現したかは、今は問題じゃない。 それから12時間近く、何故か俺達の記憶が無い」
「ええ、信じられませんが、その通りです。 探査機の記録では、アラームは私達がセットして射出していました。 更に、それ以前にドローンを3機射出している。 行方不明ですが」
「何かをしようとしたのは間違いない。 しかし、具体的な内容は、記憶にも記録にも残っていない。 いったい何が有ったって言うんだ?」

「アキラ、ワタシモ モニターシテイマシタガ、ツウシンニ ザツオンガハイリ ショウサイハ フメイデス」

「ふむ、しかし、その部分だけ記憶を失うなんて有り得るか? しかも、俺達二人共だ! コントロールシステムにはドローンと発信機の記録は有るが、俺達には覚えが無い。 寝ながら操作したって言うのか?」
「アキラ、何かが起こったのは間違い無いと私も思います。 ですが、認識出来ない事象は、起こっていなかった事と実質的な差異は有りません。 私達の知識の及ばない様な事が存在するのかも知れませんが。 それは・・・」
「それは?」
「それは、次の調査で明らかになるかも知れません。 少なくとも、探査船のセンサーで半径2,000光年の範囲に私達が認識できる異常は見当たりません。 詰り・・・打つ手が有りません。 さあ、TERAに急ぎましょう。 到着予定が12時間以上遅れています。 アキラのご両親にも一報しておかないと」
「しかし・・・いや、そうだな、急ごう。 ジェミニ、重力波航行でTERAに向けて発進!」

「アイアイサー」

終わり

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