記録の確認
探査船に戻った2人は、調査結果の整理を行っていた。
「地下区画には夥しい死体が散乱していたよ。 恐らく、恒星系の軌道を外れた段階で、直ぐに大気が失われ、地下区画の気密が失われた事で全員が窒息死したのだと思う」
「恐ろしい出来事ですね。 ジェミニの解析結果では、この惑星は3光年離れた恒星系の第4惑星でしたが、何等かの理由で恒星軌道を離脱してしまった様です」
「ああ、そう言えば・・・地下区画でこれを見つけたよ」
ボードに手書きで描かれた図を表示した。
「この図では、大型の隕石が接近し、第3惑星と第4惑星との衝突コースだったと読み取れる」
「アキラ、そうでしょうか。 むしろ、第4惑星との衝突コースが変更されて第3惑星への衝突コースになる様に見えますが」
「確かに・・・そうも読み取れるな。 気になるのは、ここに何か書き込まれている事なんだ。 第3惑星上に・・・文字の意味が分かればな」
「現存する第3惑星には、確かに大型の隕石との衝突痕が残っています。 812年前の調査資料です。 第3惑星は生命の存在しない個体惑星だった様ですが、調査用と思われる構造物が惑星の裏側に残っていました。 構造物のサイズから、使用していた人物は身長1.2~1.3m程度のヒューマノイド系だと推定されました」
「正に、地下区画に居た人達だ。 死体を確認したから間違いない。 やはり、この惑星の住人は、惑星間航行が出来るレベルの文明を手に入れていたが、何等かの原因で惑星が恒星軌道を離脱してしまった。 意図的では無かった筈だ。 恒星を失い、惑星が死の星になるのは、目に見えていた筈だから」
「そうですね。 これまでの情報で一つの仮説が思い浮かびます。 この惑星の住人は、あるとき巨大な隕石が自分達の惑星との衝突コースである事を知った。 彼等は、隕石のコースを変える手段を講じた。 恐らく、生物の存在しない第3惑星に人工的な重力場を発生させ、隕石を第3惑星に引き付ける作戦だったと思われます」
「重力波をコントロールする事が出来なかったであろう、彼等が! どんな方法で?」
「恐らく、粒子加速器による人工ブラックホールの生成です」
「人工ブラックホール! マイクロブラックホールか?」
「ええ、しかし、マイクロブラックホールの生成には成功したが、制御出来なかった。 結果として第4惑星は恒星軌道を外れてしまった」
「想定外だったって事か?」
「マイクロブラックホールの生成で、巨大隕石を引き付ける際、自分達の惑星にも大きな影響が及ぶ事は想定内だったのだと思います。 この惑星には、12か所の地下区画施設が建造されていました。 恐らく、地上での大災害を逃れるために。 この様な地下区画施設の建設には相当の期間を要した筈です」
「しかし、まさか恒星軌道を外れる様な事態までは想定していなかった」
「そうだと思います。 結果として、惑星大気は消失し、隕石の脅威に対して無防備になった。 12か所の地下区画施設は、早々に破壊されてしまったものと推定されます。 2か所を除いて」
「えっ、何だって? 2か所、残っているのか?」
「ええ、少なくとも気密は保たれています。 しかし、2万年の月日が経過しているのです。仮に気密が保たれていたとしても、施設のエネルギーが維持できているとは思えません」
「そうでもないかも知れません」 ジェミニの遠隔操作ユニットが分析室から戻って来た。
新たな事実
「ローム、貴方の仮説はお見事です」
「ジェミニ! 何か分かったのか?」
「ええ、回収してきた記録装置と指令室のコントロールシステムデータの修復が出来ました。 一部破損している情報も有りますが・・・概ね、ロームの仮説を裏付けています」
「アキラ、ローム、これは地下区画で、大量の死体が発見された区画に残されていた記録装置のデータです。 記録した者は技術者だった様です。 当時の記録が4年間に亘って記録されていました。 私が一通り確認し、重要部分を抜粋し言語を翻訳しておきました。 ご覧下さい」
1021.22(どうやら、1021は年、22は日を表しています。 月の概念は無かったと思われます。 元々衛星が存在しなかった様ですね)
今日は、この地下指令室の完成記念式だ。 あの隕石が発見されて以来、これ程も各国が連携した事は無かった。 外界の脅威に対し、初めて一致団結したのだ。 あの隕石が到達する迄、あと3年。 何としても乗り切って見せる。
1022.122
巨大隕石の破壊ミッションは、残念ながら失敗だった。 想定の範囲内だったが、やはり待ち受け作戦を成功させる以外に手は無い。 第3惑星の粒子加速器の建設も順調だ。 万が一に備え、他の地下区画整備も順調に進んでいると聞いている。 特にコロナ(どうやら、地域の名称の様です)に建設中の循環サイクル施設ももう直ぐ完成の予定だ。 一施設で3万人、2つの施設で合計6万人の人々が、完全に閉サイクルで長期間生活する事が可能な設備だが・・・この惑星の1億人の生命全てを守る事は出来ない。 何としても、プランAを成功させなければ。
1023.1
隕石の衝突まで、あと200日。 今日が粒子加速器の試運転だ。 極めて順調だ。 後は、試運転データの解析を行って、本番に備えるだけだ。
1023.20
粒子加速器に致命的な欠陥が見つかった。 どうしても安定稼働させる事が出来ない。 衝突まで、あと180日。 プランAの決行まで170日。 何としても解決しなくてはならない。
1023.180
プランAの決行迄、あと10日。 結局、問題は解決出来なかった。 連邦政府は、プランBとプランCの実行を決断した。 このコントロール区画を除く、世界11か所の地下区画に、無作為抽選で選ばれた人々を隔離する事を決定した。 地下区画に入れる人数は、12区画合わせてもせいぜい10万人。 全人口の僅か0.1%でしかない。 プランCに至っては、ロケットに搭乗出来るのはせいぜい数百人。 一か八か、プランAをやり切る意外に皆を救う手段はない。
1023.190
プランAを開始した。 現時点で粒子加速器の稼働は安定している。 マイクロブラックホールが生成されれば、一時的に恒星系の重力バランスは崩れ、隕石は第3惑星に引き寄せられる。 大きな質量を食えば、マイクロブラックホールは消滅し、やがて恒星系の軌道は安定する筈だ。 多少住みにくい惑星になるかも知れないが、隕石に焼き尽くされるよりはましだ。
1023.192
恐れていた事が起きてしまった。 粒子加速器の稼働が安定せず、予定通りにマイクロブラックホールが生成されない。 隕石を牽引するには不十分だ。 このセンターからの指令で、先程加速器の出力を最大にした。 後は、運を天に任せるだけだ。
1023.193
最悪の状況だ。 第3惑星上の加速器で生成されたマイクロブラックホールは、生成と同時にほとんどが消滅するものと考えていたが、間違っていた様だ。 加速器の出力を最大にした事で、生成されたマイクロブラックホールは合体を繰り返し、想定外の重力を発生し始めた。 この惑星も引き寄せられ始めた。 隕石の方が僅かに早く第3惑星に衝突するだろう。 しかし、この惑星も大きく軌道が変化してしまう。 第3惑星の様な、不毛な惑星に成り果てる可能性がある。
1024.194
既に粒子加速器は崩壊し、我々の出来る事は無くなった。 この惑星の地表面は大規模な災害が起きていた。 巨大津波、ハリケーン、地殻変動・・・およそ全ての自然災害が同時多発的に発生していた。 我々は何も出来ないが、この地下施設で保護されている。 無念だ。 後は状況をモニターする事しか出来ない。
1024.195
軌道の変わったこの惑星は、隕石との衝突は免れたが、恒星とのスイングバイ軌道に乗ってしまったらしい。 恐らく、この恒星系から離れる事になるだろう。 恒星からのエネルギーが得られなければ、この惑星は死でしまう。 我々のやった事は何だったのだろう。
1024.197
第3惑星に隕石が衝突した。 直ぐにこの惑星にも衝撃波と隕石が襲い掛かるだろう。
1024.199
途轍もない衝撃波だった。 既にどの区画とも連絡は取れない。 僅かな情報では、プランC、ロケットでの脱出組はマイクロブラックホールの影響でコントロールを失い、早々に全滅したらしい。 この惑星も襲われた衝撃波を考えれば、仮にコントロールが可能な状況でもダメだったかも知れない。
1024.200
最悪のシナリオだ。 衝撃波の影響で、大気の大半が剥ぎ取られた様だ。 正確には分からないが、気圧が50分の1程度まで下がったらしい。 最早、地上の生命は全て失われたと考えざるを得ない。 奇跡的に地下区画8との連絡が取れた様だが、生存が確認された以外の情報は得られなかった。
1024.203
2度目の衝撃波に襲われた。 第3惑星と隕石の破片が、この惑星に落ち始めた。 大気を失った事で、小さな隕石までもが地表にまで到達している。 この地下区画の外殻も破損し、多くの人命が失われた。 残されたのは、この気密区画に避難した・・・僅か50名だけだ。
既に何の情報も得られない。 恐らく、この惑星は恒星の軌道を外れる。 救助の可能性は期待できない。 この区画の気密は失われていないが、逆に外に出る事も出来ない。 食料は数年分備蓄されてはいるが・・・恐らく酸素が持たない。 このまま、死の恐怖に怯えながら・・・
1025.102
あれから、どれ程の日時が経過したのか。 酸素はほとんど失われた。 残された者は数名だが・・・恐らく、これが最後の記録だ。 無念だ・・・
「記録は、ここで終わっています。 恐らく、全員が窒息死したものと思われます」
「何て悲劇なんだ!」
「彼等は、私達TONA人同様に、重力波をコントロールする一歩手前までの科学水準には達していた。 後僅かでも時間が有れば、今も繁栄した高度文明だったかも知れないのですね」
「ローム、地下区画の2か所が無事だと言っていたな」
「無事とは言っていません。 ただ、現在でも気密は保たれています。 しかし、2万年以上経っているのです。 どうなっているのか、予想も付きません」
「ああ、しかし確認に行こう。 ジェミニ! 探査機の用意だ」
「アイアイサー」
循環サイクル地下区画
先程調査した区画とは惑星の反対側、別の大陸のほぼ中央に巨大な地下ドームが建設されていた。
探査機の会議テーブル上の3D画像を見ながら3人が協議していた。
「ここが入り口です。 先程と同様に、恐らく隕石が原因と思われる衝撃で大破しています」
「こんな状態で地下区画は大丈夫だったのか?」
「ご覧の様に、地下約8,000mまで竪坑が掘られ、最下点で2方向に分岐しています。 地下の横穴はそれぞれ2㎞程度。 その終着点に、直径10㎞のドーム型の構造物が2か所建設されているのです」
「途方もない大きさだな」
「ええ、ドームは直径約10㎞の真円。 ドーム中心部での天井高は約2,000m。 何らかのエネルギー源で大気や水の循環サイクルを構築したものと推定されます。 ほぼ自然に近い環境を再現する事が目的でしょう」
「先程の記録データでも言及されていましたが、このドーム1つに3万人程度を収容する計画だった様です。 十分な広さだと推定します」
「しかし・・・2万年か。 機械的な物が2万年も稼働するとは思えないな」
「ええ・・・しかし、惑星BAZOの例が有ります。 メンテナンス出来ていれば、残された人々が生存している可能性はあります」
「しかし、銀河連盟の文明で、惑星間航行が可能なレベルの文明で2万年の歴史を持つ文明は無い。 それ程長く、文明を維持できるのか?」
「より進化している可能性は?」
「だったら、既にこのドームから脱出して、地上に新たな文明を築いているんじゃ無いか?」
「アキラ、ローム、百聞は一見に如かず。 行ってみましょう」
アキラとロームは、ジェミニの一言に思わず顔を見合わせた。
小型シャトルに乗り換えた3名は、竪坑を降りていた。
「しかし、派手にやられたな!」
「竪坑を塞いで無かったのは、運が良かったですね」
「良し、もう直ぐ最下点だ。 ローム、どっちに向かおうか?」
「ジェミニ、どちらのドームの内部温度が高いですか?」
「右側ですね。 左側が推定25℃、右側が推定28℃です」
「どっちも・・・快適と言える程度の気温だな」
「私達には・・・ですね。 この惑星の住人が快適だと感じる温度は、正確には分かりません」
「凡そは分かるって事か?」
「ええ、この惑星の重力は約0.4Gです。 我々より代謝は低かったと推定出来ますので、恐らく28℃は高すぎるのでは? と推定出来ます」
「成る程・・・で、どうする? 快適と思われる方を先に確認するか?」
「ええ、ただ、気温が高い方の生命活動が活発と思われますので、右側を先に確認しましょう」
「OK! それじゃ、右に」
再下点から右に進路を向けると、正面に巨大な扉が見えて来た。
「ジェミニ、どんな様子だ?」
「はい、この扉は3重のエアロック構造の最外面の扉です。 今、内部の状況をスキャンしていますので、少しお待ち下さい」
「了解! ローム、コーヒーでも飲むか?」
「ええ、ありがとうございます。 頂きます」
アキラは、コーヒーを2杯入れ、ロームにカップを手渡した。
「しかし、内部の様子を探るにも、直接乗り込むのはまずいかな」
「ええ、まずはドローンでの調査の方が良いと思います」
「良し、そうしよう。 ジェミニ! スキャンの状況は?」
「はい、表示します」
会議テーブル上に、ドームの3D画像が表示された。
「ここが、我々が居る場所です。 これが、目の前の扉。 ここから先、エアロック構造の気密区画が3部屋繋がっています。 恐らく、不測の事態への対応の為でしょう。 この4つ目の扉の内側がドームの内部になります。 しかし、ご覧下さい。 この出入口は、ドーム内部の人工地盤に埋もれた状態になっています」
「ええ! それじゃ、入れないのか?」
「いいえ、入れないと言う訳ではありません。 しかし、内部の者には、出入り口の無いドームと認識されている可能性が高い。 恐らく、2万年前の衝撃などで、想定外に人工地盤が変形してしまったものと推定されます」
「内部の大気状態は?」
「凡そ・・・気温28℃、酸素25%、窒素73%、その他微量。 湿度72%・・・」
「俺達の呼吸にも支障なさそうだな。 気温と湿度も、まあ問題無いか」
「はい、多少蒸し暑く感じる程度かと思います」
「よし、それじゃ、エアロックから侵入して、内部への扉をドローンが入れる程度に開けてみよう。 ところで、内部の環境調節はどうやっているんだ?」
「恐らく、調節はされていません。 このドームの入り口の反対側に、制御室と思われる部屋が存在します。 しかし、入り口側同様に、人工地盤に覆われ、アクセス出来なくなっています。 即ち、自動コントロールになっているか、もしくはドーム内部が自律的に環境を安定させていると思われます」
「自律的にって・・・」
「ええ、恐らく、ドーム内で完結する生態系が構築されている可能性があります。 約8千万m2の・・・決して大きいとは言えませんが」
「まあ、確かにな。 兎に角、ドローンを入れてみよう。 ボーリング用のパイプを通してみよう。 ジェミニ、地盤の厚さは?」
「はい、約200mです。 シャトルに装備されている分で十分です」
エアロックの扉は、電源の供給が途絶えており、ジェミニが力づくでこじ開けた。
「お前は役に立つよ」
「痛み入ります。 それでは、最後の扉を開きます。 30㎝程度にしますので、パイルの挿入をお願いします」
「了解!やってくれ」
ジェミニが扉をスライドさせると、僅かに土が零れ落ちたが、いい塩梅に固まって呉れていた様だった。
小型シャトルのロボットアームを使い、パイルを数本繋ぎながら、地表へ向かってパイルを押し進めた。
「良し、地表に到達した。 ドローン4基を投入する」
調査用の小型ドローン4基をパイルに挿入し、小型シャトル内のモニターで観察を開始した。
「まずは、内面の形状をスキャンさせます。 それから観察に移りましょう」
徐々にドーム内面の3D画像が描かれていく。
「まるで森林だな。 植物が育つ程度には光が存在するって事か? ああっ、ドームの中央に湖がある」
「そうですね。 全体として、ドームの側面側が高く、中央が低い。 恐らく、2万年前の衝撃で、偶然側面に人工の地盤が寄ってしまったのでしょう」
「しかし、中央の湖は?」
「ええ、恐らく、ドーム内の湿った大気が上昇し、ドームの内壁に触れる事で凝縮し、壁面を伝って地面に滴り落ちる。 それが、川の様に集められ、中央の低地に集結すると言う循環サイクルではないでしょうか」
「成る程な。 おっ、大体地表のデータが撮れた様だ。 可視光カメラに切り替えて呉れ」
コンソールの4つのモニターに画像が表示された。
「おいおい、意外に明るいな! 天井の照明を見せて呉れ」
ドームの天井は発光するパネル状のもので覆いつくされていた。
「スペクトル分析では、ほぼTERAの太陽光に近いですね・・・恐らく、恒星から受けていた第4惑星のスペクトルを模擬したものと思われます」
「しかし、2万年経っているんだ。 それに電源は?」
「恐らく、地熱エネルギーによる発電でしょう。 それ以外にエネルギー源は考えられません。 それと、照明やエネルギー系は、自己修復のシステムが組み込まれていたのでしょう」
「それにしても・・・2万年も稼働するとは」
「ご覧の様に巨大な構造物です。 天井の照明だって、切れた照明を取り換えるのも容易ではない。 設計段階から、ノーメンテで使えるような工夫を施していたのでしょうね」
「銀河連盟でも見習わなくちゃならないな。 いい仕事をしていたんだ」
「それでも、照明は・・・恐らく稼働当初の80%程度の照度になっている様です。 地熱発電が今でも稼働しているのは、脅威ですね」
「ああ・・・良し、ドローンを地上に戻して呉れ。 生体反応を追って呉れ。 それと、湖の周辺を見たい」
「湖には・・・魚が泳いでますね。 数も多い」
「湖の周辺には、ほら、木や葉を組み合わせた家の様な物が幾つか見える。 あっ、家の外に人が居る」
「そうですね。 外見をスキャンしました。 身長は約80㎝、手が長めで体毛が濃い様です。 と申しますか、着衣は見られませんので、裸で生活している様です。 ほぼ猿ですね」
「もしかして、退行進化か?」
「ええ、間違い無いでしょう。 このドーム内の地表面の気温は約28℃。 恐らく、彼らにとっては暑めの気温と思われます。 これが着衣を不要にした理由でしょう。 体型は小型化、森林での生活に有利で、エネルギー消費を少なくする為と思われます」
「子供かも知れないぜ?」
「いいえ、子供と思われる個体も居ます。 身長約40㎝、更に小型です」
「他の生物は?」
「ドローンでの有視界調査の範囲では、大型の肉食獣は存在しません。 TERAのヤギに似た草食動物、かなり大型のキリンに似た者も居ますね。 あと、ウサギに似たもの、湖内には数種の魚が確認出来ましたが爬虫類や両生類は見られません」
「余り、生物の多様性は無いな」
「仕方ないでしょうね。 このドームは、元々住民の避難用だった筈です。 ノアの箱舟では無かった」
「ノアの箱舟とは? 何ですか?」
「ああ、TERAの神話さ。 惑星規模の災害から避難する為に大きな箱舟を造った。 箱舟を造ったノアの家族と、世の中の全ての生物のつがいだけが生き残った・・・まあ、こんなストーリーだ。 残念ながら、このドームはノアの箱舟では無かったせいで、一部の生物だけが生き残ったと言う事になる」
「このヤギとキリンをご覧下さい。 形態的に非常に良く似ている。 恐らく、当初1種だった者が、2万年の時を経て地上の草を主食にする者と、高所の葉を主食にする者とに分化したのかも知れません。 僅か2万年ですが・・・進化していると推定されます」
「成る程、良く分かりました。 しかし、彼等をこのまま放置する訳に行きませんね。 と言っても、意志を確認する事も出来ない。 銀河連盟の判断を仰ぐしか無いですね」
「そうだな。 俺達だけで何とか出来る規模でもない。 ボスを通じて、銀河連盟に判断を委ねるしか無いな」
「アキラ、ローム。 ドームは、もう一つ有りますよ」
「ああっ、そうだったな。 それじゃ、こちらはドローンを回収して、パイルを抜いて現状復帰しておこう。 それにしても、疲れたな。 今日は、ここまでにして、一旦探査機に戻ろう」
「了解です。 お腹も空きましたね」
各エアロックを復旧し、竪坑を抜けて探査機迄戻って来た。
地下深くのドームには、2万年を生き延びた退化した住民が発見された。 もう一つのドームの状況は如何に・・・。 宇宙調査員物語 第11話 後編に続く