探査機にて

 アキラとロームの2人は、食事を終え探査機の会議室後方に設置されたソファーに身を委ね、天井のモニターに表示されている満天の星空を眺めていた。
 恒星の光が届かず、大気も薄い惑星上では、宇宙空間に居るのと何ら変わらない。

「アキラ、この無数の星々に、様々な生き物が生きているのですね」
「そうだな。 俺達がこうして出会ったのは奇跡だと思う事がある。 銀河連盟の加盟人口だけで1,000億人を超えている。 TERA人同士だって、一度も会わない人が居るのに・・・何故、俺は君と出会う事が出来たのかな」
「神の・・・神様の力でしょうか? 私には偶然だとは思えません」
「ああ、もしかすれば、神様の力が存在するのかも知れないな。 俺達がこれまでに経験した様々な事件だって、俺達以前には存在さえ予想もされなかった事ばかりだ。 この惑星も、出会ったのは偶然では無かったのかも知れないな」
「あのドームで生活していた生き物たちは、自分達がどんな状況に置かれているのかも知らない。 どれ程、危うい状況かも・・・」
「ローム、それは俺達だって同じさ。 未来がどうなるか分からない。 もしかしたら、銀河や宇宙が明日にも終わってしまうかも知れない。 仮にそうだとしても、今を全力で生きる事が俺達の使命だし、何としても未来へ命を繋ぐんだ」

 アキラは、ロームを抱きしめ、改まった様に言葉を繋いだ。

「ローム、俺は・・・間違い無く君より先に寿命が尽きる。 でも、死のその時まで、君を愛し続けると誓う」
「アキラ、私も・・・既にこの魂と身体は貴方に捧げています。 もし、貴方の寿命が尽きても、私の魂は貴方の魂と共にあります。 そして、このお腹の子の成長を見届けるのが私の使命だと思っています」

 アキラは、ロームのお腹を摩りながら、改めてロームとの口付けを交わした。

「ローム・・・それにしても、お腹の子の成長が遅いな」
「アキラ、普通ですよ。 TONA人の妊娠期間は、TERA時間の20か月程度です。 私の母は、TERA人だった母は、この長期の妊娠期間に身体を蝕まれてしまったのです。 ですが、私は大丈夫。 半分TONA人で半分TERA人、どちらの良いところも受け継いでいる筈です」
「ああ、分かっているよ。 しかし、絶対に無理しないで呉れよ。 元々、今回は産休の為にTERAに帰る途中だったんだから」
「大丈夫です。 既に安定期に入っていますし・・・アキラも一緒ですから」

 アキラは、もう一度ロームを抱きしめた。

再度地下区画へ

 探査機から小型シャトルへと乗り換え、3人は再度地下区画へと移動を行っていた。

「よ~し、今日はもう一方を調査する」
「アキラ、左に旋回して、約2,000m先です。 エアロックの扉前で停止をお願いします」
「了解だ」

 エアロックの手前に到達した。

「それでは、ドームのスキャンを行います」
 ジェミニがドーム内のスキャンを行っている間、アキラは徒歩で周辺の調査を行った。
「こっち側の横穴は、所々に破損が見られるな。 こりゃ、ドーム内は滅茶苦茶になってるんじゃ無いのか?」
「アキラ、地殻データを見ると、この地点には地殻の断層が有った様です。 2万年前の事件の際、その断層が大きくずれた様ですね。 ただ、相対的には、こちらのドームは余り影響を受けず、反対側のドームが大きく揺さぶられたのでは無いかと推定します。 昨日の調査で、あちらのドームの人工地盤が大きくずれていた事象とも一致します」
「それは良い情報だな。 こっちのドームが健全である可能性が高まった。 ジェミニ、データは撮れたか?」
「はい、シャトル内に表示中です」

「やはり、こちらの構造には破損は見られない様ですね」
「しかし、致命的な問題が有ります。 これをご覧下さい。 エアロックの第4扉、即ち、ドーム内に出入りする最後の扉のメインフレームが変形しています。 これが原因で、内側からは扉を開ける事が出来ない」
「それ以外に損傷は無いのか?」
「ええ、エアロックの各扉への通電は確認出来ました。 つまり、地熱発電は正常に機能している筈です。 そこで・・・提案が有ります」
「何だ?」
「通信を試みては如何でしょうか?」
「通信? 通信って、内部で文明が維持されているって事か?」
「そうです。 昨日のドームと異なり、このドームは健全に維持されている可能性が高い。 従い、不幸な事に内部から外に出る事が出来ないだけで、内部に生存者の子孫が居る可能性は極めて高い」
「しかし、この惑星からの電波は一切観測されていないぞ」
「彼等が発信していないだけかも知れません。 2万年間、一度も応答が無かったのですから」
「確かに、ジェミニの意見に賛成です。 もし、内部に生存者が居た場合、私達が強引に入り込むと恐怖を与えてしまう恐れもあります。 意志の疎通を図ってからの方が良いと思います」
「確かに、そうだな。 既に、彼等の言語の基本的な翻訳システムを構築出来ているし・・・良し、ジェミニ、全チャンネルで交信を試みて呉れ」
「アイアイサー」

 ジェミニが発信を開始して、既に8時間が経過した。

「ダメかな」 アキラは、諦め始めた様だった。
「いいえ、アキラ。 元の惑星軌道と回収出来たデータから推算すると、彼等の一日は約32時間です。 仮に私達同様に1日の3分の1程度働くと仮定すれば、20時間以上は逆に休んでいる事になります。 最低でも32時間、1日は交信をトライしましょう」
「あ、ああ。 了解だ。 気長に待とう」 アキラは、いつもながら自分の気の短さを反省した。 ロームと組んでいるから成果が出せているのかな? と、真面目に考えていた。

 通信開始から30時間、相手が反応した。

「アキラ、ローム、応答がありました。 モニターに出しますので、通信をお願いします」
「こちらコロナⅡ、こちらコロナⅡ、応答下さい」
 モニターには、あの記録映像に映っていた人物に似た、間違い無くこの惑星の住人だった人物が映っていた。
「こちらはアキラ。 銀河連盟 中央府 調査局 惑星探査部の調査員です」
「おお、私はジャナ。 コロナⅡの通信担当だ。 本当に通信が入るとは思っても居なかった」
「ジャナ。 私はアキラ、そしてパートナーのロームだ」
「ロームです。 初めまして」
「おお、アキラ、ローム。 少しだけ待って欲しい。 このコロナⅡの責任者を呼んでくる。 こんな事件は記録に無い! 先祖の言い伝え通り、待っていた甲斐が有った! 2万年以上、待った甲斐が!」
「ジャナ。 貴方方は、2万年前の出来事が語り継がれているのか?」
「ああ、学校の教育で皆が学ぶ。 このコロナⅡで生を受けた者の絶対の務めだ」
「おおっ、脅威だ! 2万年もの期間に亘って、意志が受け継がれていたなんて。 ジャナ! 私達は貴方方との面談を希望しています。 責任者の方にお伝え頂きたい」
「ええ、アキラ。 直ぐに市長を呼んでくる。 お待ちください」

 市長が到着した。
 通信機のモニターには、市長の後方に大勢の人達が覗き込む姿が見えていた。

「お待たせしました。 私が、このコロナⅡの市長、ディナです」
 ディナは落ち着いた風貌の女性だった。
「初めまして、ディナ。 私はアキラ、こちらはロームです」
「こちらコロナⅡの民は、皆驚いています。 この世界での生活が始まって2万年以上、外部からのコンタクトは初めてなのです。 皆、先祖からの言い伝えを信じてはいたものの、いざ現実になると驚きを禁じ得ません。 念の為にお伺いします。 貴方には私達に対する敵意はありませんね?」
「勿論です。 飽くまで友好的なコンタクトだと・・・信じて下さい」
「どの様な根拠で、信じたら良いでしょうか?」

 アキラは、ロームと顔を見合わせた。

「ディナ。 私はロームです。 もし、私達が貴方方に危害を加える目的を持っているのなら、この様な通信を行う事も無く、エアロックを破壊しているでしょう。 私達は、貴方方の力に成れればと思い、この様なコンタクト手段を取りました」
「確かに、貴方方は私達と異なる種族の様です。 この惑星以外からコンタクトする能力をお持ちの貴方方ならば、このドームを破壊する事も造作もない事でしょう。 貴方方を信用致します。 コンタクトを歓迎します」
「ご理解頂き、ありがとうございます。 先程、ジャナとの会話で、貴方方が自分達の置かれた状況を理解していると聞きました。 2万年以上の先祖の記憶を引き継いでいる事に驚嘆しています。 私達は、そちらにお伺いしても良いでしょうか? 即ち、コロナⅡに入っても」
「ええ、歓迎します。 しかし、私達の惑星は宇宙空間を驚異的な速さで移動している筈です。 この宇宙の何処を移動しているのかも私達は正確には把握していません」
「それは・・・心配には及びません。 私達は、既にエアロックの扉の外まで来ています」
「えっ、何ですって!? 既に、この惑星に・・・驚きました。 確かに、私達には貴方方に抗う力など有ろう筈が無いですね。 是非、お会いしたい」
「それでは・・・唯、貴方方もご存知と思いますが、エアロックの扉は変形してしまっています。 少し修理が必要ですが・・・私達が扉に手を加えても良いでしょうか?」
「拒絶する理由はありません。 是非、お願いします。 過去に、祖先が何度もエアロックの扉を開ける努力をしましたが、開ける事は出来なかった。 逆にお願いしたい位です」
「ディナ市長。 ご許可をありがとうございます。 それでは、外側からエアロックの扉を開けさせて頂きます。 あっ、それと・・・私達は、貴方方の種族より少し大きい事をご承知置き下さい。 貴方方が驚かない為の・・・次善の情報です」

接触

「アキラ、ローム、扉の修理は終わりました。 扉の変形は除去しましたので、今なら内側からでも開けられる筈です。 内部の大気は、酸素18%、気温25℃、湿度34%、有害な物質は検知されません。 高原並みの爽やかな環境ですね。 私は、このシャトルで待機していますので、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ああ、ジェミニ、頼む。 もし、不測の事態になったら助けに来てくれ」

 アキラとロームの2人は、扉の前に立った。
 大きな扉と小さな扉が入れ子構造になっていた。 大きな扉は大型の物資搬送用なのだろう。 今回は小さな扉から入る事にした。

「ジェミニ、開けて呉れ」
「アイアイサー」

 アキラとロームが扉を潜ると、目の前にディナと大勢の市民が立っていた。
 皆子供程度の大きさだった。
 アキラとロームは、ディナの前まで進み跪いた。
「アキラとロームです。 ディナ、お会い出来て光栄です」

 ディナは、右手を差し出しアキラとロームの手に触れた。
「アキラ、ローム、歓迎します。 暖かい手に触れて、安心しました。 さあ、市庁舎へお越しください。 市の幹部が歓迎させて頂きます」

 恐らくトラックを改造したものだろう。 オープンカーの様な荷台に乗せて貰い、市の中心部までゆっくりと移動した。 トラックは、モーター駆動の電気自動車の様だった。 確かに道沿いには、所々、充電スタンドと思われる装置が見える。 一見してTERAの中世の様な街並みとは異質に見えた。
 道の両側には、多くの市民たちが物珍しそうに見物に来ていた。

 市庁舎に到着した。
「小さな造りで申し訳ありません。 これでも・・・市庁舎が一番大きな建物なのです」
「ええ、ディナ。 大丈夫ですよ。 しかし、驚きました。 2万年前からこのドームで生活されているのに、何と整備された街なんだ。 少しレトロな感じが・・・また良い」
「アキラ、ローム、これには理由が有ります。 後程、詳しく説明致しましょう。 ささ、今は私達も貴方方から伺いたい話が沢山有ります。 一番奥のホールを使います」

 市庁舎の一番奥、恐らくは議事堂としても使われているのであろうホールに案内された。
 ステージ側には椅子が2つ用意されていた。

「椅子は・・・窮屈では無いですか?」 ディナが心配して2人に尋ねて来た。
「ええ、大丈夫です。 快適ですよ」

 ホールにはディナ以外に20人程度の市民が入っていた。 男女比はほぼ半々。 市長がディナである様に、男女が平等な世界の様だ。

「改めまして、アキラ、ローム。 良くいらして頂きました。 ここに来ている市民は、科学者・識者・市民の幹部などです。 貴方方からのコンタクトは、正に青天の霹靂でした。 2万年以上にも及ぶ私達の歴史に、新たな1ページが刻まれたのです。 先祖代々、私達が望んでいた事が起こったのです。 ただ、私達は余りにも無知です。 色々と教えて頂きたい」
「勿論です。 お答え出来る範囲で・・・何でも聞いて下さい」

「何故、言葉が通じるのか?」
「2万年以上前、この惑星が恒星軌道を外れた時点での貴方方の先祖の記録を得ました。 その記録から貴方方の言葉を学び、私達のシステムが瞬時に翻訳して呉れるのです」

「2万年前の事件は事実だったのか?」
「私達が調査した限り、事実です。 この惑星は不測の事態により、元の恒星軌道から離脱し、今現在も宇宙を漂っています」

「どこへ向かうのか?」
「分かりません。 と言うか、この惑星は最初に恒星の軌道を離れて以降、何度か他の恒星の影響などで進路を変更していますが、基本的に宛もなく動いています」

「今後、この惑星の進路に障害は有るだろうか?」
「私達のコントロールシステム・・・あっ、名はジェミニと言うのですが・・・が解析した範囲では、今後20光年先までは特に問題はなさそうです。 因みに、貴方方はこれまでに約3光年移動していますので、20光年先までは後14万年程度の距離と言う事になります。 但し、この解析は既知の恒星と惑星のみを対象としています。 未確認の小惑星や隕石などによる不測の事態も無いと言う事では有りません」

「私達以外に生存者は居るのだろうか?」
「正直なところ、全ての調査を行った訳ではありません。 現時点で得られている情報では、この惑星が隕石との衝突を回避した時点で、恐らく地下区画12か所以外の生存者は居なかったものと推定します。 しかし、直後の隕石雨により、ここコロナⅡともう一つのドーム以外の地下区画は短期間で破壊されました。 ここから4㎞離れたドームでは、破壊こそ免れましたが、こことは異なる環境になってしまっています。 生存者は居ますが、貴方方とコミュニケーションが取れる状態では有りませんでした」

「コロナⅠの事を詳細に知りたい」
「正直に申し上げます。 2万年の間に文明を失い、住民の子孫と思われる猿と、僅かな種類の生物が生存している状態でした。 記録映像も有りますので、ご覧頂く事は可能です」

 ホールに集合していた市民は一様に動揺を隠せない様だった。
「アキラ、ローム。 私達の質問にお答えいただき、本当にありがとうございます。 私達は、初めて私達の置かれた立場を正確に理解しました」

「ディナ、私達も貴方に伺いたい事が有ります。 どの様にして、これ程に理性的に文明を維持できたのか?」
「ローム、正直なところ文明が維持できているとは言えません。 私達の祖先は、惑星間航行の技術や、マイクロブラックホールを生成する程の科学技術に達していました。 しかし、現在の私達は、知識としてそれを知っているだけであり、具体的に活用出来る技術を持ち合わせては居ないのです。 私達の認識できるのは、このドームの中での事だけ。 宇宙すら見た事は有りません。 先程も申し上げた様に、2万年以上前、大災害に見舞われて以降、幾人もの祖先が外の世界を目指しました。 しかし、このドーム内に影響を及ぼさずに、外の世界に出る事は出来なかった」

「どの様に生活して来たのですか?」
「このドーム内の循環サイクルを壊さない様に、厳密に管理して来たのです。 人口、農業生産、牧畜、工業・・・ある時点で、化学製品の生産を止めました。 どうしても処理できない残渣が残るからです。 全人口を3万人と設定し、新たな命が誕生して3万人を超える場合は、長寿の者に生命を終えて貰う。 全ての市民には仕事が割り振られ、全ての市民が平等に生活するシステムが構築された。 祖先の知識は維持してきた積りです。 しかし、その全てを活用する環境では無かったと言う事です」

 アキラとロームは、互いに顔を見合わせた。

「ディナ、良く分かりました。 そこで、改めてご相談があります。 今後の事です」
「と言いますと?」
「貴方方の希望を伺いたい。 この惑星からの脱出を希望するか否かです。 もし、ご希望が有れば、私達は銀河連盟 中央府に事を諮り、貴方方への援助を申し入れます」
「ありがたい申し入れです。 ただ、私の一存で決められる事ではありません。 市民議会で議論してから回答させて下さい。 暫し、お時間を頂きたい」
「分かりました。 それでは、私達は惑星の調査を続けますので、議論の結果が出たらご連絡下さい」

決断

 アキラとロームは、惑星の他の地下区画調査を続けていた。

「この地下区画が最後ですが、ここもダメでしたね」
「ああ、やっぱり、第2波の隕石群で破壊されてしまった様だな。 あの2か所のドーム以外に、生命は残されていない」
「ええ・・・それにしても、コロナⅡの住人が文明を維持して生き残っていたのは奇跡ですね」
「そうかな」
「えっ?! アキラ、どう言う事ですか?」
「例えば惑星NEDAを思い出してご覧。 小さな島に、もともと4万人位の住人が住んでいた。 絶海の孤島だ。 島からは出られない、しかし、文明を育んでいた」
「それは・・・でも、あの様な閉鎖されたドームと島を同じ様に考えて良いのでしょうか?」
「惑星規模でも同じ事だよ。 科学技術が発達していなかった時代、惑星からは出られなかった。 一生を惑星上で過ごすんだ。 それ以外に手は無いからね」
「それはそうですが・・・あんなドームでは、どんな危険が有るか分かりません」
「惑星にだって・・・実際に隕石の被害を受けたんだ。 仮に、移住した惑星が絶対に安全か? と言われたら、Yesとは答えられないだろ」
「それはそうですが、飛躍し過ぎじゃ無いですか?」
「そうかな。 俺はディナとの会話以来、ずっとそれを考えて来た。 コロナⅡの市民の回答が想像出来る気がするんだ」

 その時、ジェミニからの連絡が入った。

「ディナから・・・お会いしたいとの事です」
「分かった。 直ぐにコロナⅡに移動する」

 探査機で移動し、小型シャトルに乗り換えてコロナⅡのエアロックにやってきた。
 エアロックの扉を潜り、コロナⅡに入った。
 アキラが市庁舎へと続く道を眺めると、今度は、屋根付きの車が迎えに来てくれていた。

 市庁舎のホールに入ると、ディナと約20名の市民が迎えて呉れた。
「アキラ、ローム。 ご足労頂き、恐縮です。 議論の結果が出ましたので、お伝えしたい」
「ディナ市長。 分かりました。 伺います」
「私達は、今迄と同様の生活を希望します。 ただ、貴方方が来て下さったお陰で、それまで“もしかしたら間違っているのではないか”と疑っていた祖先からの言い伝えが事実である事を知る事が出来ました。 それに、貴方方のお陰でエアロックも開閉可能になった。 私達は、私達自身の手で、この惑星の復興を目指します。 もしかすれば、他の惑星への移住を決断する事になるかも知れませんが・・・今はこの故郷、この惑星を見捨てる事は出来ません。 祖先から受け継いだ科学技術を実際に活用し、出来るところまでやってみる考えです。 コロナⅠの生物についても、私達が保護します。 元は私達と祖先を一緒にする同族です。 私達に責任がある」

 ロームは目を丸くしてディナの言葉を聞いていたが、アキラは落ち着いて回答した。

「ディナ市長、分かりました。 貴方方の輝かしい未来を祈念致します」
「アキラ、ご理解頂いてありがたい。 ついては、貴方方がこの惑星を調査した記録はご自由にお使い頂いて構いません。 しかし、手を差し伸べて頂く必要はありません。 私達には、祖先が行った行為に対して、落とし前を付ける義務が有ると考えたのです」
「ええ、理解します。 ところでディナ市長、一つ提案が有ります」

エピローグ

 アキラとロームは、漂流惑星を離れ、銀河連盟 中央府への帰路についていた。

「アキラ」
「何だい、ローム」
「あれで良かったのでしょうか?」
「ああ、彼等の希望通りなんだから、良いじゃ無いか。 この前も言ったけど、どこに居たって、リスクはある。 この探査船だって、ブラックホールに呑み込まれる可能性だって有るんだから。 彼等は故郷を捨てず、自らの手で復興する道を選んだ。 数千年や数万年掛るかも知れないが、もしかしたら重力波を制御出来る様になるかも知れないぜ」
「そうですね。 ところで、この調査記録はどうします?」
「そうだな・・・判断はボスに任せよう。 非公式記録として惑星探査部長の私的資料にするか、公式記録にするか」
「それが良いかも知れませんね。 その方が、彼等の希望にも叶っているかも知れませんね。 ところでアキラ、最後にディナに何を提案したのですか?」
「えっ、あれかい・・・」

 その時、ジェミニから通知が来た。

「アキラ、コロナⅡのジャナから通信が入っています」
「えっ、コロナⅡから恒星間通信ですか!? アキラ、彼等に恒星間通信装置を提供したのですか?」
「ああ、ジェミニに改造して貰ったんだ」

 コントロールルームの通信画面にジャナの顔が映った。

「やあ、ジャナ。 通信テストは成功だな」
「アキラ、ありがとう。 ジェミニに教えて貰った通信システムとアルゴリズムは理解したよ。 この技術はロケットの推進システムにも応用出来るんじゃないかと思うんだ。 今、運輸班のゴランが試作機を造っている。 テスト結果は後日報告するよ」
「ああ、ジャナ。 報告を楽しみにしているよ。 ゴランにも宜しく伝えて呉れ」
「了解だ。 アキラ、では通信テストを終える。 またな!」

 通信装置の画面から、ジャナの顔が消えた。

「アキラ、驚きました。 驚異的な技術の理解力ですね。 重力波通信と重力波推進は、基本技術は同一です。 彼等は、この短期間にその事に気が付いている」
「そうだな。 こりゃ、漂流惑星の復興も意外と直ぐかも知れないぜ」
「アキラ、見抜いていたのですか? 彼等のポテンシャルを」
「いや、そう言う訳でも無いよ。 ただ、2つの事で、もしかしたらとは思ったんだ。 1つ目は、2万年前の記録だよ。 結局は失敗したが、粒子加速器でマイクロブラックホールを生成した件・・・何度壁に当たっても諦めずにチャレンジし、ブラックホールの生成には成功していた。 2つ目は、最初にコロナⅡに入った時、うっかり超小型ドローンをドーム内に落としてしまったんだ。 気にも留めて無かったが、2度目にドームに入った時、遠くで複数のドローンが飛び交っているのが見えた。 その内の1基は、人が乗っていた様だった。 それで・・・もしかしたらとは思ったんだ。 ローム、怒らないでくれよ。 これは銀河連盟規約に抵触しているかも知れない」
「アキラ、銀河連盟規約にはこうも記されています。 “人命の救助に限り、その限りではない” 今回は、人命救助用途ですので・・・規約違反にはならないと思います」

 ロームは、アキラにウインクし、何かを喋ろうとするアキラの口を指で塞いだ。
 更に唇で・・・

終わり