ケンタとの出会い

 私の名前はアキラ。 銀河連盟の調査局、惑星探査部に所属する新米調査員だ。
 出身は惑星TERA。 銀河連盟に参加するまでは、地球と呼ばれていた惑星だ。

 1年間の実習期間を経て、調査員としての成長が認められ、いよいよ指導教官から独立する事になった。 通常は経験豊富な先輩調査員と組んで、更に経験を積んでいく事になる。
 今日は、部長のワダから呼び出されていた。 恐らくは、誰と組むのか告げられる事になるのだろうと思い、少し緊張しながら部長の執務室へと向かった。

 部長のオフィスは二部屋で構成され、廊下に面した部屋には秘書が常駐している。
 ノックと同時にドアを開けると、秘書が上目遣いに私を睨み付けていた。
「普通は・・・入れと言われてから、ドアを開けるものでしょ!」 惑星SABAの出身と思われる女性秘書が、今にも襲い掛かって来そうな剣幕で私を罵った。 SABA人は銀河連盟でも珍しい、血の気の多い人種として有名だ。 実は、その方面では、TERA人とSABA人が双璧だと言われている。
「も、申し訳有りません。 少し緊張していたもので・・・確認もせずに開けてしまいました」 私は素直に詫びを入れた。 下手に喧嘩腰になれば、手が付けられなくなる恐れが有る。 「ところで、部長に呼ばれて参りました。 アキラと言います」

 秘書の女性は、スケジューラーを確認しながら、改めて上目遣いで睨み付けて来た。
「ええ、聞いているわ。 部長はご在席です。 どうぞ、お入り下さい」 一息置いて。
「ノックして、呼ばれてから入るのよ」
 私は苦笑いを浮かべながら、部長室の扉をノックした。

「入れ」 渋い声が聞こえて来た。
「失礼します。 アキラです」
「おお、待っていた。 まあ、座って呉れ。 早速、秘書の洗礼を受けた様だな。 ここに居ても、大きな声が聞こえたよ」 部長は、デスクの前に置かれた重厚な調度のソファを指し示した。 私がソファに腰かけると、部長もテーブルを挟んだ向かいのソファへと腰を下ろした。 丁度その時、秘書がコーヒーを運んできた。 いつも飲んでいるフードディスペンサーのコーヒーよりも良い香りが漂ってきた。

「アキラ」 部長が重々しく声を発した。 「お前も一人前だ。 そろそろミッションを与えても良い頃だ」
「あ、ありがとうございます」
「ところが・・・だ」 部長のワダの眉間には、深い皺が見て取れた。
「えっ?」
「いや、お前が悪い訳でも何でもない。 お前を付けようと思っていたベテラン調査員が病気になってしまってね。 何、彼の出身惑星の風土病でね。 療養には期間を要するが、別に命に係わるって程のものでも無い。 しかし、お前を一人にしておくのも気の毒なのでな。 大きなグループの調査班に入って貰おうか・・・どうした物かと思案していた」
「は、はあ。 で、どうなるのでしょうか?」

「そこでだ・・・色々考えた結果、お前にはケンタと言う新人と組んで貰おうと思う」
「新人? 私も新人ですが、新米2人で? それに、ケンタ・・・もしかしてTERA人ですか? まさか、日本人?」
「おお、その通りだ。 私もルーツはTERA人だが、お前もTERA人、そのケンタもTERA人で、しかもまさかの日本州の出身って訳だ。 この調査局にTERA人は何人か勤務しているが、同じ日本州の出身は2人だけ。 お前とケンタだけだ。 はははっ」

「そ、それが組む理由ですか?」
「いやいや、まさか。 単なる偶然だ。 私自身が熟考を重ね、お前とケンタが組むのが合理的と判断した」
「その根拠は?」
「それを説明する積りは無い。 2時間後に第12会議室に来てくれ。 ケンタと顔合わせをし、ミッションを説明する」
「分かりました。 では、後程」

「ああ。 あっ、ちょっと待て。 これだけは事前に言っておこう。 ケンタはお前と同い年だが、元々開発部に勤務する予定で実習を受けていた・・・正式配属に先立って、本人のたっての希望で、惑星探査部の採用面接を行う事にした」
「わ、私が面接官と言う事ですか?」
「そう言う訳じゃ無い。 ただ、彼と行動を共にし、ミッションをやり遂げて呉れれば良い。 これは、お前自身の適性検査でもある」
「は、はあ。 分かりました。 それでは、後程」

 私は、部長の執務室を出て、惑星探査部の自席へと戻り、2時間程の時間を潰す事にした。
 第12会議室に向かうと、既に部長とケンタが入室していた。

「部長、済みません。 少し遅れてしまいました」
 ワダ部長は腕時計を一瞥しながら、私に視線を移し「何を言っている。 まだ集合時間前だ。 まあ、揃った事だし、早速ミッションの説明をしよう。 おっと、先に・・・彼がケンタ。 そしてアキラだ」
 私は、右手を伸ばし、ケンタと握手した。 意外に力強く握り返してきた。
「私はアキラ。 宜しく」
「俺はケンタ。 宜しく頼む」

ファーストミッション

 私とケンタは、真新しい探査船を与えて貰い、目的の星系へと向かっていた。 この探査船は、300名の乗員が乗る事が出来る設備が整っているが、今は2人だけで乗り込んでいる。 探査船に関しては、ほぼ全てが自動制御され、2名で問題無く操縦する事が出来た。

 私達は、コントロールルームの操縦席後方に設置された会議テーブルで、雑談していた。
「君、日本州の出身なんだって?」 私はケンタに声を掛けた。
「ケンタって呼んで呉れよ。 ああ、両親は今でも日本州に住んでいるよ。 北海道自治区だよ。 アキラは?」
「ああ、育ったのは関東自治区だったけど。 高校入学前に、父親の仕事関係で中央府ステーションに引っ越した」
「中央府ステーションって・・・アキラの親父さんはお役人かい?」
「まあね。 中央府の経済産業局・・・今も現役さ」
「へえ、エリートなんだな。 どうしてアキラは役人に成らなかったんだ?」
「おいおい、調査員だって役人みたいなものだろう? まあ、あんまり固い仕事には就きたくなかったから選んだ仕事だよ。 子供の頃から、前人未到の未知の惑星探査がしたかったしね。 ケンタはどうして調査局へ? 確か、開発部から惑星探査部への転籍を希望したって聞いたけど」
「ああ、その通りだ。 俺は物造りが好きなんだ。 ソフトでもハードでも、何かを造っている時が一番幸せなんだ。 だから開発部が良いかなって思っていたんだけど、1年間研修受けていて肌に合わないなって思ったのさ。 やっぱり、現場に乗り込んでいって銀河連盟初めての発見をするとか・・・楽しそうだからな」
「おいおい、余り安易に考えない方が良いんじゃ無いのか? 実際、惑星探査部で何年かに1人の確率で死人が出ている。 そりゃ、事故とかが大半だけど、その事故に遭う確率が飛躍的に増す仕事だ」
「それじゃあ、どうしてアキラは好んで危険な仕事を選んだんだ?」
「そ、そりゃ・・・面白そうだからさ」
「お互い様じゃん!」
 私とケンタは、大いに笑い転げた。

「ところで、ミッションの事だが・・・」
「ああ、簡単なミッションだ。 過去に一度調査した惑星の経過観察だからな。 既に土器文明後期レベルの知的生命の存在が確認され、彼等の文明進化の状況確認が目的だ」
「と言っても、前回の調査は惑星探査部発足当初の300年前だ。 気は抜けない」
「おいおい、アキラは堅苦しい奴だな。 まあまあ、重力波航行は順調だし、後10時間程度で目的の星系に到着だ。 コントロールシステムの自動運転に任せて、ひと眠りしようぜ」
「そうだな。 それじゃ9時間後に集合だ」
「OK!」

 その瞬間、探査船に衝撃が走った。 私とケンタは、会議テーブルから弾き出され、操縦席の背もたれに激突してしまった。
「うわぁ・・・一体、何が」 ケンタが狼狽しながら叫んだ。
 私は素早く操縦席に座り、痛むオデコのたん瘤を摩りながら、システムの状態をチェックした。 ケンタも直ぐに隣の席に着席し、同様にシステムチェックを始めた。
「重力波ドライブが止まっている。 信じられん」 途方に呉れた顔を私に向けた。 「あっ、生命維持装置は!」
「大丈夫だ」 私は落ち着いて答えた。 「重力波航行が中断した事は、正面の窓に通常の宇宙空間が見えている時点で明らかだ。 生命維持装置は最初にチェックした。 停止していたが、サブシステムを切り離して既に再起動させた。 船内気密も正常。 重力波ドライブが停止した理由は不明だが、何故か船内の重力は正常だ」
「お、落ち着いているな。 俺は少しパニクッちゃったよ。 ところで・・・緊急停止の理由が分かったよ」


「原因は?」
「リレー回路が同時に2か所で焼け焦げている。 根本原因は不明だが、何等かの負荷が掛った結果だ。 自動のメンテナンスシステムも、基幹リレー回路の2か所の同時損傷までは想定していなかったって事だな」
「直せるか?」
「基幹リレーだぜ、ドッグにでも入らないと・・・流石に船に予備品は積んで無いぜ」

 私は、周辺の環境データを確認し、眉を顰めた。
「どうした、アキラ」
「最悪だな。 重力波ドライブが故障だと、重力波通信が使えない。 しかも、この周辺の重力観測結果を見て呉れ」
「何? お、おお、連星の重力に捕まっちまったのか?」
「どうやら、そうらしい。 しかも、極めて珍しい連星だ。 それ程大きな恒星では無いが、2つの恒星が連星を形成している。 何と、2つとも同質量だ」
「普通なら、多少なりとも差があるからな。 まあ、連星の末路は一方が一方に吸い込まれ、大概はブラックホール化して終わりだ。 おいおい、俺達の船、この連星系の重心に引っ張り込まれているのか」
「その通りだ。 信じられない様な偶然だが、重力波ドライブ停止後の慣性飛行航路が、この連星の重心に一致していた様だ。 今は落下状態で、こちらが能動的に動けない以上、重心点に囚われの身になる」

「おいおい、アキラ。 冷静なお前らしくも無い。 確かに、この探査船の重力波ドライブの基幹リレーは、直ぐには修理出来ないが、搭載している探査機の重力波ドライブが使えるだろ。 探査機は4機積んである。 4機分の基幹リレーを使えば、探査船の応急修理は出来るさ。 但し、探査機は使い物にならなくなるけどな」
 思わぬケンタのアイデアに、私は心底驚嘆した。 搭載機の部品で治す・・・この短時間では思いもつかなかった。
「ナイスなアイデアだ。 確かに、出来そうだな」
「出来るさ。 俺の得意分野だぜ」
「自信満々だな。 そうと分かれば・・・ケンタ、目の前に面白そうな物がある。 少し見学に行かないか?」

「一体何が? あっ、連星の重心点に惑星が有る。 おいおい、しかも水が存在する様だ。 信じられん。 灼熱の惑星じゃないのか?」
「ああ、私も信じられないよ。 偶然にも2つの恒星に挟まれているが、恒星エネルギーのバランスが良かったんだろうな。 正にハビタブルゾーンが存在し、この2連星共有の唯一の惑星って訳だ」
「しかし、部長から指示されていない惑星の探査となると・・・職務規定違反になっちまうぜ」
「確かにその通りだが、目の前に奇跡の惑星が有るって言うのに、見過ごせないよ。 重力波ドライブが故障したのは事実だ。 復旧に時間が掛かったって事にすれば、1日分位は誤魔化せるさ」
「確かに・・・行ってみるか!」
「行ってみよう!」

奇跡の惑星

 2連星に挟まれ、常に全球が恒星光に晒される惑星。 夜が存在しない惑星に生命が存在するのか? 探査船はケンタの機転で応急修理を終え、惑星の静止衛星軌道に停泊していた。
「どうやら、まともにコントロール出来そうだな」
「ああ、重力波航行には探査機4機分の基幹リレーのシンクロが必要だが、それ自体はコントロールシステムの制御で問題無い。 但し、俺が急遽作ったプログラムだからな・・・何か有っても恨みっこ無しだぜ」
「いやいや、流石だよ。 私一人では思いつきもしなかったアイデアだ。 そもそも、ハードの流用だけならいざ知らず、コントロールシステムのプログラム変更なぞ、私には到底無理だよ」
「はははっ、でも、アキラの冷静さが無ければ、最初の事故で窒息して死んでいたかも知れない。 お前さんのお陰で、今が有るって事さ。 ところで、惑星の方は?」
「ああ、連星の中心に有るって事以外は、まるでTERAの様だ。 まさに惑星を中心に恒星が2つ周りを廻っている。 奇跡の天動説って訳だ。 惑星の方は・・・そうだな、2~3億年前のTERAって感じだな」
「って事は、陸上の植物どころか、陸棲生物も存在するって事かい」
「ああ、夜の来ない惑星で、どんな生態かは分からないがね。 少なくとも、海にも陸にも生命が存在している様だ。 酸素濃度が偉く高いが、一応メタンも検出されるな。 降りてみよう」
「そうだな。 探査機は使えないから、小型のシャトルで降りるか。 小さいから扱いやすいし」

 私達は小型シャトルに乗り込み、惑星の大気圏へと突入した。 小型シャトルの飛行翼を張り出し、飛行モードで上空からの観察を進めた。
「あの大陸に行ってみよう。 比較的高い山も有るし、恐らく全ての生態系が見れると思う」
「了解!」
 地上1,000m程度まで近づくと、地上を動く大型の生物を見る事が出来た。
「やっぱり、既に陸棲の大型生物も居るな」
「おいおい、しかし・・・ちょっと大き過ぎないか? まるで山が動いている様に見える」
「確かに。 もう少し近付いて呉れ」
 地上100m程度まで近づくと、彼等の大きさが実感できた。
「おいおい、デカいな。 見た目はナウマンゾウみたいだが、全長100m位は有るぜ。 この惑星の重力は?」
「1.05Gってところだ。 流石にあんな巨体が地上を動けるとは思えない。 それに、何だか体表が樹皮で覆われている様に見えるな。 足は8本の様に見える」
「ああ、全身緑色だぜ。 なあ、体内をスキャン出来ないか?」
「やってみよう。 20m程度まで近づいて呉れ」

 スキャン結果を見て、私達は驚いた。
「おいおい、骨格が無いぞ。 と言うか、全身がほぼ同じ組織だ。 表皮は少し密度が高いか」
「彼には申し訳無いが、表皮のサンプルを貰おう」
 小型シャトルからマニピュレーターを伸ばし、大型生物の表皮の一部をこそぎ取った。
「おいおい、全然感じて無いのかな。 平然と歩いているぞ」
「痛みの伝達速度が遅いのかも。 或いは、痛み自体を感じていないかも」
 表皮細胞の解析結果は直ぐに出た。
「驚いたな、あれは植物だ。 動く植物だよ。 動く森って感じだ」
「え~、マジかよ。 おっ、お誂え向きの丘が有る。 あそこに降りて、地上を確認しよう」

 私達は念の為、船外活動スーツを着込んでシャトルを降りた。
「一面植物だらけだな。 おっ!」
「どうした」
「ああ、地面にトカゲみたいのが居たから捕まえた。 ほら、見て呉れ。 足が8本で頭の様な構造は有るが、目・鼻・口が見当たらない。 それに・・・」
「どうしたんだ?」
「このトカゲみたいなの、体型はさっきのナウマンゾウみたいなやつにそっくりだ。 まさか、彼奴の子供か?」

 私はポータブルアナライザーの探触子をトカゲの身体に接触させた。
「ふ~む。 やっぱり、こいつは植物だ。 まだまだN数は少なすぎるが、どうやらこの惑星は動く植物の世界みたいだな」
「植物の世界?」
「ああ、常に恒星光が降り注ぎ、光合成にはもってこいだ。 恐らく、生命発生の初期段階で植物性プランクトンと動物性プランクトンが覇権争いを行い、圧倒的に植物性プランクトンが勝利したんだろうな。 道理で酸素濃度が高い筈だ」
「って事は、魚も植物?」
「まあ、私達が魚と呼ぶ様な姿形かは分からないが、恐らくそうだろう。 何等かのきっかけで、移動する事が生存に有利に働いたんだろうね。 その生物が陸上にも進出した。 植物は、基本、年齢と共に成長する。 だから、さっきの巨大生物みたいのが出来たんだろうな。 年齢を調べたいな・・・きっと数千歳じゃないかな」
「成る程な。 体が全部構造部材みたいなものだから、あそこまで巨体になっても維持できる訳か」

 その時、2人の背中側でカサカサと音がしたと同時に、何者かが素早くケンタに飛びついて来た。
「あっ!」 ケンタがその生物を振り払うと、ケンタの持ち物を奪い去り、直ぐに森へと消え去った。
「どうした! 何を取られた?」
「ああ、モニターのタッチペンを取られた。 それにしても素早かったな。 あんな奴も居たんだな」
「一瞬の事だったが、可成り頭が大きかった様に見えた。 それに、後ろの4本を足の様に使い、前の4本を手の様に使っていた。 タッチペンを握れる程度には器用に物を掴む事が出来る様だ」
「とっ捕まえて、サンプルとして持ち帰ろうか?」
「タッチペンは樹脂製だ。 センサーにも反応しないし、追い掛けられないよ。 それに、生物の捕獲は倫理違反だ。 彼等に知性が有るかどうかは分からないが、略奪と言われても反論出来ない」
「そ、そうだな。 それじゃ、このトカゲも放して、後は生物調査部に任せるとするか」
「そうしよう。 私達は、ファーストコンタクトのレポートを上げる事で終わりにしよう。 いやいや、駄目だ。 この惑星に降りる事も独断でやった事だった。 それ自体が処分の対象になる恐れもある。 残念だが、これは2人の秘密にしよう。 正式に惑星探査部の調査員になれれば、また来るチャンスは有るさ」
「そ、そうだな。 それじゃあ、早々に退散しようか。 しかし、大気にはメタンも検出されていたんだ。 動物が居ても可笑しく無いんだけどな」
「詳細に調査すれば、恐らく動物類もみつかると思う。 植物だけで生態系が維持されているとは思えないからな。 案外、海や地中が動物の世界かも知れない。 活発には動けない様な動物・・・それを動物って言って良いのか分からないけど」
「もしかして、この惑星に知性が発達したら、酸素問題が勃発するかもな!? 俺達の惑星が、過去に二酸化炭素問題で苦しんだみたいに」
「はははっ、有り得ない話じゃないな。 まあ、そうなれば面白いけどな」

 小型シャトルで惑星の重力圏を脱出するさなか、ケンタがポツリと呟いた。
「さっきの猿みたいな奴、いずれはこの惑星を支配するのかな・・・」
「そうかも知れないな。 この連星系がいつまで安定を保てるのか分からないが、数百万年後には知的生命と言えるレベルには達するんじゃないか」
「それなら、彼等はこの惑星を脱出するレベルまでは行けそうだな!」
「おいおい、どう言う事だ」
「何、概算でこの連星系の未来を計算してみた。 後、1,500万年後に連星が崩壊するみたいだ。 今でも微妙にバランスが崩れ始めているがね」
「そんな事迄分かるのか?」
「ああ、探査船を出る時に、コントロールシステムに各恒星の詳細データを取る様に指示しておいたのさ。 待っている間、暇だろ?」
「ふふふっ、コントロールシステムが暇だと感じると言うのかい?」
「彼だって立派なAIだ。 それを表に出していないだけさ。 いや、表現する様にプログラムされていないだけ。 これから俺がコツコツとシステムをバージョンアップしていくから、楽しみにしておいて呉れ」
「変な奴だな。 まあ、楽しみにしておくよ」

惑星探査部 調査員

 私達は、ケンタが応急手当した探査船の重力波ドライブで、無事に指示されていた惑星の経過観察を終え、銀河連盟の中央府ステーションへと戻っていた。
 経過観察のレポートをケンタと共に作成し、部長へ提出してから1週間後、私達は部長に呼び出された。

 部長室のドアをノックすると、奥から秘書の声がした。
「お入りください」
 この前の秘書ではない女性だった。 以前の秘書とは打って変わって、キュートなXEON人の女性の様だった。 正にクールビューティーと言った印象だ。
「アキラとケンタです。 部長から呼び出されました」
「ええ、伺っています。 部長もお待ちですので、どうぞ」

 部長の部屋の扉をノックすると、いつも通り低い声が聞こえて来た。
 私達はソファに腰かけ、部長が対面に座った。 と同時に、秘書が良い香りのコーヒーを運んできた。
「やっぱり、コーヒーはTERA産に限るな。 TERAの銀河連盟に対する最大の貢献は、このコーヒーを産出する事かもしれないな」
「それだけっすか?」 ケンタが突っかかる様に部長に反論した。
「えっ、いや、何、はははっ。 TERA人は優秀だ。 銀河連盟内でも各要職にTERA人が就いて居るのを見ても分かる。 その中にあって・・・尚って事だ」
 私は、軽く苦笑いをするしか無かった。

「ところで、どの様なご用件でしょうか?」 私は部長に尋ねた。
「俺もアキラも、この1週間・・・手持ち無沙汰だったんです。 次のミッションですか?」
「馬鹿者! 調子に乗るな。 お前達は審査期間中なのだぞ!」
「は、はい」 ケンタは、急に大人しくなった。
「はははっ、そこまで恐縮せんで良い。 先日の初ミッション、つつがなく終えた事は良かった」
「はい、ありがとうございます。 前回の調査報告との差異は、一覧にして整理致しました」
「おお、あれも読み易くまとめられていた。 余りこれと言った変化は無かった様だな」
「ええ、僅か300年程度ですからね。 住民も、砂鉄や銅を使い始めたばかりの様でした。 銀河連盟加盟惑星の歴史考証と比較しても、順当かと・・・」

「ふむ・・・ところで、何か報告漏れは無いか?」
「えっ」 私とケンタは顔を見合わせた。 探査船の基幹リレーを応急処置した事は施設管理部には報告済みだったが、部長には何も伝えていなかった。 あれの事か・・・。
「探査船の故障は災難だったな」
 やっぱり。 直接報告しなかった事を怒っているのか? 私はおずおずと答えた。
「え、ええ。 想定外の故障だったものですから。 ご報告を上げず、申し訳有りません」
「何を謝っている? 探査船の基幹リレーが2か所で同時に損傷するなど、過去に発生しなかった事例だ。 重力波ドライブが使えなければ、ここにも戻って来られなかっただろうし、あまつさえミッションの遂行は無理だ。 故障した事の連絡さえ、重力波通信が使えなくては出来ないのだからな」
「え、ええ、まあ。 仕方なく、探査機の基幹リレーをバラして応急処置しました。 探査機を4機も壊してしまい、申し訳有りませんでした」 ケンタが心底反省した様に頭を下げた。

「はははっ、探査機4機如き、お前達2人の命に比べれば安いものだ。 それより・・・指示以外の惑星に降りたな?」
 改めて、私とケンタは顔を見合わせた。
「な、何故それを・・・ご存じなのですか?」
「認めるのだな? 指令外の行動を取った事を」
「は、はい」 「その通りです」 私とケンタは、素直に頭を下げた。 とても部長を直視出来なかった。
「はははっ、何だ、意外に素直だな。 探査船が帰還不能の故障を起こした状況で、良く惑星探査をする気になったな」
「は、はい。 2つの恒星に挟まれた、常に昼間の惑星でしたが、水の存在が確認されたものですから・・・つい、好奇心に負けてしまいました。 勝手な行動を取ってしまい、誠に申し訳有りませんでした」
「動く植物の惑星か? 感想を言ってみろ」

「は、はい」 私は、つばを飲み込みながら正直に答えた。 「奇跡の惑星でした。 時間さえ有れば、もっと探査したかったと言うのが本音です。 しかし、レポートには何も書きませんでしたし、私達2人はこの事を誰にも言っていません。 何故、部長がご存じなのです?」
「お前達が審査期間中だって事を忘れたのか? お前達の行動は、逐一モニターしていたし、お前達の行動や会話は全て記録されていた。 ぶっちゃけて言うと、今回の探査船の事故は仕組まれた物だ。 新人の最後の採用試験だったと言う訳だ」
「仕組まれた・・・道理で、基幹リレーが同時に2か所で故障するなんて、可笑しいと思ったんだ。 それに、重力波ドライブの故障で船内重力が維持されていたのも、変だとは思ったんだよ。 くそっ、監視装置や監視プログラムまでは分からなかったな」 ケンタが怒りだした。

「まあまあ、そう怒るな。 正直な所、探査船の異常故障と言う審査プログラムで、何事も無くミッションを遂行したのは、300年の惑星探査部の歴史の中でお前達が初めてだ。 正直に言って驚いたよ。 普通は、宇宙空間を漂っているところを救助されて終わりってシナリオだったのだがな。 ところで、仕組まれた事故ではあったが、想定外だった事が有る。 あの連星系近くでドライブ停止になる予定ではなかったのだ。 重力波航行中が故に、ほんの数マイクロ秒の違いでも、数十光年の位置のズレが生じる・・・そのせいだった。 監視していたこちらのスタッフの方が慌てた位だ。 しかし、お前達は予想外の方法で探査船を復旧し、更に未知の惑星探査迄やってのけた。 はっきり言おう、お前達はこれ迄の最高点で合格だ」

「あ、ありがとうございます。 しかし、あれがテストだったとは・・・」
「お前達は、今日から正式にコンビを組め。 探査船を1隻任せる。 それと、リーダーはアキラ、お前だ。 ケンタも、アキラのサポートを頼むぞ」
「は、はい」 私達2人は、直立して最敬礼した。
「それでは、失礼します」 暫し、部長との歓談を終え、私達は部長室を出ようとした。

「ちょっと待て、もう一つ言っておく事が有る」
 私達は部長を振り返った。
「お前達が見つけた惑星だが・・・直ぐに正式な調査が行われた。 驚く様な生態系だった。 あの様な不安定な環境で、生命が発生した事自体が奇跡だが・・・」
「部長!」 ケンタが口を挟んだ。 「あの惑星に動物は居たのですか?」
「ああ、その事だが。 我々の常識で言う所の動物では無いが、地下世界に動物性のタンパク質が無数に発見された。 恐らく、生命の発生初期に、我々とは異なった進化の道筋をたどったのだ。 植物が運動し、動物は定着した。 結果として、動かない動物達が、あの世界の生態系の基礎を支える事になった。 植物の死骸が地下に潜む動かぬ動物達の餌となり、動物達の死骸が地上を闊歩する植物達の成長を支えているのだ」
「信じられない生態系ですね」
「ああ、しかしこの宇宙には、まだまだ我々が知らない未知の惑星がある。 それを探査する事がお前達の仕事だ。 期待しているぞ」
「了解しました!」

 私達は部長室を出て、早速探査船が係留されているドックを目指した。
 ステーションのドックに係留されている探査船を眺めながら、私はケンタに声を掛けた。
「何だか、私がリーダーに指名されたけど・・・ケンタとなら、良い仕事が出来ると思う。 これからも宜しく頼む」
「ああ、任せとけ。 アキラがリーダーなのは腑に落ちないが・・・お前の冷静さは高く評価するよ。 俺も希望通りに調査員になれた。 これも、お前のお陰かも知れないし、兎に角宜しく」
 私とケンタはがっちりと握手した。

終り

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